約束をねだるのは、あなたと会う口実が欲しいからよ。
君を泳ぐ魚
(呼吸する間もなく、)
いちごのケーキに花のアロマ。金のネックレスにかわいい絵本。
白いレースのハンカチ、ひらひらのフレアスカートにお花の刺繍。
みんなわたしのすきなもの。
でもいちばんすきなのは――
「しゅーうとっ!」
背後から忍び寄って、きゅっと抱きついた。柊斗(しゅうと)はよろけもしないで、わたしの手を軽く叩く。
「香奈(かな)、いい加減会うたびに抱きつくのやめてくれ……」
「え、なんで? ダメ? 柊斗、わたしのことキライになった?」
「ダメとかキライとかそういうんじゃなくて……うん、とにかく離れて今すぐに」
「ヤ。」
「ヤ。って香奈、あのなー」
「だってだってだって、柊斗、最近冷たいんだもんっ。冬は人恋しくなる季節なのに柊斗ひどい今すぐ泣いてやる――っ!」
「え、いや、香奈? ………………あーもーだーっ! わかったわかったごめん謝るから泣くなよもーっ」
あたふたしながら必死に慰めてくる幼馴染がかわいくて、愛しくって、ホントに泣きそうになる。――泣いたって、どうしようもないのにね?
「あ、そうだ。香奈の好きないちごのパフェ、食べに行こう。ほら、駅前の喫茶店、いちごフェアとかいうのやってるからさ。香奈毎年楽しみにしてるだろ? な? だから」
「柊斗の、おごり?」
「……一種類、だけな」
「やったーあ! 行こ行こ柊斗早く行こっ! 柊斗だーいすき、愛してるーっ」
「はいはいありがとーございまーす。……っていうわけだから、悪い、帰るよ俺」
いつのまにかいた柊斗のクラスメイトたちが、なんやかんやとはやし立てる声をBGMに、わたしは柊斗の学ランを引っ張りながら歩く。貼り付けた笑ガオ、バレてないよね?
振り向かないで、ずんずん歩く。途中、柊斗の足が遅くなったけれど、わたしはぜったい振り向かない。柊斗がどんなカオして「そっち」をみてるかなんて、知ってる。だから、振り向かない。振り向いたら、ぜったい壊れちゃうもの。
「んっとに、香奈はいちご好きだよなー」
「ん〜おいしっ! ……なんか言った?」
聞こえてたけど。
「なんでもない。……ほら、クリームくっついてんぞ」
「え、どこどこっ」
「口の端。や、右の。そうそれ」
指についたクリームをなめて、幸せそーに、笑う。わたしには飲めないブラックコーヒー片手に、片眉を上げて苦笑いしてる柊斗がいるから。
昔は、ブラックコーヒーなんて飲まなかったのに。
昔は、一緒に食べてくれたのに。
そんな小さなところにも、変化を見つけてしまう私の目。
……わかってる。背伸び、したいんだよね。
だからわたし、わざと子供みたいに振舞うの。あなた気付いてないでしょう?
「ねーねー柊斗、また写真撮った?」
「ん? あ、ああ。まぁ、いくつかは」
柊斗の趣味は写真で、子供の写真とか風景とか、とにかく何でも撮るのが好きなんだ。友達とかは、あんまり撮らない。
「どんなの撮ったの? 見せて見せてー」
「今日は持ってきてないから、今度な」
「え、じゃあ……明後日は? 明後日なら、部活ないでしょ?」
「あーのーなー。明後日は土曜だろ、部活なんかあってたまるかっ」
「はいはーい。じゃあ土曜に10時ね、柊斗んちに行くから、きれいに片付けておくのよっ。おばさま元気かなー」
「何故そうなるっ!?」
「え、なに、ヤなの? イヤとか言う? 柊斗わたしのことキライに」
「あーもーだーわかったわかったわかったから泣くなよ泣くなってばまず食え!」
フォークを奪ってケーキをすくって口元へずいっと持ってきてくれるから、わたしは逆らわずに口を開ける。鳥のヒナが、親鳥から餌をもらうように。おいしーい、と顔をほころばせれば、良かった話そらせた、って柊斗は小声で呟くの。
小さな意地悪で困らせるのも、約束をねだるのも、あなたに会いたいから、だけど。
あなたの一番近くにいられるこの関係を、壊したくないわたしは臆病者。
近い将来、あなたの隣にあのひとが来ることがあったって、わたしはきっと、言えないんだろう。
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